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オルメカ文化研究者の日誌
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今学期から始めたベラクルス大学での非常勤講師のお仕事も、残すところ後1回の講義で終わりになりました。最初は、発掘についての方法と技術を教える演習だという事で、それほど準備にも時間もかからないだろうと思っていたのですが、実際に始めてみると、さすがに6時間ぶっ通しの毎週毎週の授業は、その準備をするだけで1週間のほとんどが無くなってしまいました...。

そんな訳で、結構大変なお仕事でしたが僕自身も考えさせられる事、学ぶ事が多い3ヶ月でした。もちろん発掘は実際に現場に出ていないと教えられない事もあるし、僕自身、今でも試行錯誤しながら現場で働く事ばかりなので、僕が持っている知識の全てを教える事は出来なかったかもしれません。でも、ほんの少しでもこれから現場に出るメキシコの考古学者のたまご達の力になれたのなら、頑張った甲斐があるというものです。

最後の授業を前に、これまでの授業の内容を振り返ってみたいと思います。長くなりますが、お付き合い頂けると有り難いです。

第1回 「イントロダクション」
とりあえず最初の授業という事で、僕自身の自己紹介、そして講義の内容に関する簡単な説明。評価の方法についての説明。それから、学生さん達自身の自己紹介をしてもらいました。

第2回 「第1章 発掘現場に出る前に:第1節 発掘調査の様々な事例」
ここから、本格的な授業が始まりました。学生さん達は半分くらいが発掘経験が無い人たちだったので、手始めに僕がこれまでに参加した調査の中から幾つかの事例を具体的に紹介しました。僕はこれまでに幸いにも日本、中国そしてメキシコと3カ国で調査に参加させてもらう事ができたので、それぞれの国での調査の特徴などを写真を使って説明しました。それぞれに、独特な部分もあれば、共通する部分もあり、発掘調査のおおよその特徴は掴んでもらえたのではないかと思います。

第3回 「第1章 発掘現場に出る前に:第2節 調査計画書の書き方」
どこの国でも同じだと思いますが、メキシコでは調査の前に調査計画書を国立歴史学人類学研究所(日本の文化庁のようなもの)の考古学審議会に提出して許可をもらう必要があります。メキシコではこの許可をもらうのが、かなり難しく、その審査の上で最も重要な位置を占める研究計画書の書き方とメキシコでの文化財法で定められている事柄などを説明しました。授業の成績の大部分を占める最終リポートとしても、この研究計画書を書いてもらうということにしました。というのも、今後彼らが考古学者としてメキシコで働いていくには必要なものですし、演習のテーマでもある考古学的発掘の方法と技術についての十分な理解が無いと、この研究計画書も書く事ができないからです。逆に言うと、演習のテーマをしっかりと理解していれば、ある程度の内容の研究計画書を書く事は出来るはずですし、将来の仕事の予行練習にもなると考えたからです。

第4回 「第2章 発掘中の調査方法:第1節 調査区の設定の仕方」
メキシコでは、発掘調査の一般的な方法として幾つもの試掘坑を開けて調査するという方法がとられています。そして、そのような発掘調査の最初の段階として調査区の設定という作業があるわけですが、これまでに、色々なメキシコ人の若者と調査に参加した時に感じたのが、意味の無いところに発掘区を設定したり、変に困難な方法をとっていていつまでたっても四角い枠を組む事ができない人が多いと感じていました。そこで、初めにどういう所に調査区を設定するのかという事、そして次に、調査区を設定するよりシンプルな方法を教える事にしました。

もちろん、メキシコでも全面発掘などの大規模な調査もあるので、その際に用いられる調査区の設定方法についても教えました。
それから、発掘で使う道具とその使い方についても説明しました。使い方は体で覚えるのが一番なのですが、さすがに構内を発掘するわけにもいかず、とりあえず、現場でどのようにして使うのかという事を図や写真を用いて説明しました。

この回から、教室の外に出て実際に作業を体験してもらうという事も始めました。最初は手間取っている学生さん達が多かったのですが、次第にコツを掴んだようで徐々に作業の正確さとスピードがアップしていきました。

  
写真:作業中の学生さん達

第5回 「第2章 発掘中の調査方法:第2節 発掘中の写真撮影方法」
お次は、調査中に必要となる写真撮影方法。以前はフイルム式のカメラを使っていたので失敗は許されませんでしたが、今ではデジカメが主流となりその場で確認が出来るのでだいぶ楽にはなりました。でも、写真についての基本的な知識はどんなカメラでも必要になるし、何の為に現場で写真を撮るのかという事も知る必要があります。そこで、初めに写真についての基本的な知識を図を交えて説明し、その後は実際にカメラの取り扱いについて説明しました。

講義の後は、教室の外に出て実際にカメラを各自の使って撮影するという作業を行いました。自分のカメラでも結構知らない機能なんかもあって、皆、試行錯誤しながら作業をしていました。最近ではデジカメもお手軽な価格でしっかりとした機能がついているものが多いので、メキシコの現場では各自のカメラを使う所がほとんどです。

被写体は、前回の授業で学んだ調査区の設定状況(皆、だいぶ素早く設定できるようになりました)。つまり、発掘前の状況の写真撮影です。これ、僕自身、忙しいと忘れちゃう事もあったりします...。まだまだ、ダメですね...。

  
写真:作業中の学生さん達

第6回 「第2章 発掘中の調査方法:第3節 発掘中の図面による記録方法(1)」
この日は、現場での記録作業でも頻繁に必要となる図面の書き方をテーマに話をしました。まずは、現場ではどんな図面を描くのかという事、なぜ図面を描くのかという事から始めて、平面図の書き方に焦点を絞って、描き方を教えました。

講義の後はまたまた、教室の外で実際に平面図を描くという作業をしてもらいました。前回同様、発掘区を設定してもらった後、その中に物を置いてそれらを遺物に見立てて平面図を描くという事をやってみました。初めは近所のスーパーで買ってきた使い捨ての皿やコップだけでやってもらうつもりだったのですが、ちょうどそれらの使い捨ての食器類をおいている時に、他のグループを教えている友人の先生(彼は表面採集調査の授業を教えています)が通りかかり、授業で拾ってきた現代物の破片でよければ貸してくれるというので、さっそく、それらも使って作業をしてもらう事にしました。やっぱり、発泡スチロールの食器だけだと気分が出ませんからね。

  

  

  
写真:作業中の学生さん達

第7回 「第2章 発掘中の調査方法:第4節 発掘中の図面による記録方法(2)」
この日は、前回の平面図につづき現場で頻繁に描く事の多い地層の断面図、つまりセクション図について。まずは、地層の違いを識別する必要があるので、地層の堆積や違いの見分け方について説明しました。次に、実際に描く時の注意点などを細かく説明し、今回も外で実際にセクション図を描くという作業をしてもらう事にしました。

ただし、実際に発掘しているわけではないので、地層の断面が観察できる所は構内には無く、仕方が無いので校舎に見られるシミや汚れ、そして素材の違いなどを地層の違いと見立てて分層してもらう事から始めました。なんとか、地層っぽいものが出来上がったので、次は実際にそれを図化してもらう作業を行いました。

  

  

  
写真:作業中の学生さん達

第8回 「第2章 発掘中の調査方法:第5節 特殊な状況における発掘調査の方法」
前回までの授業で、一通りの発掘調査の作業について説明し終わったので、今回はそれ程頻繁ではないにしても、いずれは直面するであろう特殊な状況における発掘調査の方法を知ってもらう事にしました。

特に、埋葬、埋納遺構そして炉跡の発掘について写真や図面を用いて説明しました。これも、本当は現場で実際に掘りながら説明した方が分かりやすいのですが、仕方ありません...。多少なりともイメージが湧いてくれたのなら良いのですが。

第9回 「第3章 発掘後の研究:第1節 研究所での仕事(特に遺物の実測図について)」
この日は、発掘調査が終わった後はどういう作業が待っているのかという事を知ってもらおうと思って、整理作業のおおよその流れと遺物の実測方法について説明しました。僕の授業は基本的には発掘の方法と技術を教えるという目的の演習なので、整理作業については来学期にみんなそれ用の演習を取る事になっているのですが、整理作業の内容を知らないと発掘現場でも必要な情報を集める事が出来ないと思い、簡単な流れを知ってもらう為にこの章を設けました。

彼らが現場に出た時に、少しでも思い出してくれて必要な情報を漏らさないでくれれば良いのですが、ちゃんと理解してくれただろうか?...

遺物の実測図については、以前授業をとったことがあると聞いていたのですが、これまでにメキシコ人が描いた遺物の実測図で考古学的に素晴らしいと思える図面に出会った事がないので、なぜ実測図を描くのかという話から始める事にしました。
どうも、メキシコの人たちにとって実測図は論文の飾りだったり、みんな載せているから載せとかなきゃとか、よりリアルに見えるものを描かないとという思いがあるように思うのですが、実際に考古学的に必要な実測図とはそう言うものではありません。そんなものは綺麗に写真を撮ればすむ話で、膨大な労力と時間をかけて考古学的に使えない実測図を描く必要は全くありません。

考古遺物の実測図というのは、詳細な観察結果の様々なデータや解釈が詰まった情報記号の集積なのです。まずはそこを理解しないといつまでたっても「使える」実測図は描けません。つまり、本来はここの遺物についての十分な知識がないと遺物の実測図は描けないのですが、時間的な制限で、さすがにそこまで教える事は出来ませんでした...。とりあえず、様々な道具の使い方、そして、最低限観察すべき視点、そして、幾つかのテクニックを教えるだけしか出来ませんでした。

はじめに、僕自身が土器片と石器の実測を実演して、その後に実際に各自に土器片や石器を描いてもらったのですが、僕が言いたかった事を理解してくれたのかどうか良く分かりませんが、最後には何となく雰囲気は掴めているような図面が出来上がってきました。以前、実際の整理作業中に遺物実測をメキシコ人に教えた事はあったのですが、そのとき同様、今回も学生さん達はみんな「真弧(マーコ)」に興味津々でした。メキシコにも金属製の似たようなものはあるはずなのですが、みんな見た事がないようです。


写真:真弧

第10回 第4章 発掘調査におけるその他の方法と技術:第1節 特殊な機材の使い方(トータルステーション及び平板)
この日は、僕が実際に発掘の方法と技術を教える最後の日になっていたので、何を教えるか迷ったのですが、結局、特殊な機材の使い方ということで、トータルステーションと平板の使い方について教える事にしました。

最近メキシコでも色々なプロジェクトでトータルステーションを使う現場が増えてきたので、少なくとも据え方と使い方の基本的な作業だけでも知ってもらおうと思い、大学で所有しているか聞いてみると、案の定、持ってないという。そこで、友人がメキシコで保管している日本の研究所の機材を借りる事にしました。責任者の方にメールで事情を説明すると、快く貸して頂ける事になったので、とても助かりました。

平板に関しても、学生や友人の先生方に聞いてみると、ある人は倉庫で見た事があるというし、ある人はそんなものは見た事も無いというしで、不安だったのですが実際に倉庫を見てみると年代物の平板セットが置いてありました。実際に使えるのかどうか事前に確認してみると、どうやら使えそうなので授業まで借りる事にしました。ただ、アリダードが非常に年代物で僕自身使った事もないものだったのですが、何とが使い方が分かったので学生さん達にも説明する事ができました。また、友人が日本で今でも普通に使っている(?)、僕自身が良く使い慣れたアリダードセットを持っていたので、それも借りる事が出来ました。

はじめに教室で図や写真を使って使い方を説明して、その後は例によっていつものように外に出て実際に使ってみる事にしました。
トータルステーションは残念ながら三脚が見当たらなかったので、三脚を使って設置方法を説明する事は出来ませんでしたが、頭だけで設置の方法を教えて、実際に少しだけ使い方を教える事にしました。

次に、平板を使って構内の中庭の測量図を描くという作業を行いました。
日本では今でも発掘現場で普通に平板測量をやっていると思いますが、こちらではほとんど見かけません。そんな訳で、学生さん達も全員平板に接するのは初めてで、最初はかなり四苦八苦しながら使っていましたが、最終的にはその利点なども理解してくれたようでした。

  

   

  
写真:年代物のアリダード、作業中の学生さん達

今週水曜日は僕の受け持つ演習の最終日になります。これまでは、一般的な発掘の方法と技術を僕自身の経験から教えたのですが、実際に発掘現場に出てみるとそれぞれの考古学者によって独自のやり方があることが分かります。そこで、最終回となる第11回は僕の友人3人にそれぞれの経験を元に各自の発掘についての短い講演をお願いしました。これによって、学生さん達に実際に考古学者によって、あるいは現場の状況によって作業の進展や気をつけるべき所が変わってくるという事を知ってもらえればと思います。

さてさて、どうなるか?
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東京池袋の古代オリエント博物館で開催されているオルメカ展が気になって、色々とネットで見ていると以下のページを見つけました。

グッズのページ

展示会場では色々と面白いグッズも売っているらしい。
Tシャツ、クリアファイル、そしてピンバッチのガチャガチャなどなど。
いいなあ、全部欲しくなってしまいました...。

特に気になるのが、ガチャガチャ。行ったら絶対に全部揃うまでやってしまいそう...。

他にもイベントなども色々と企画されているらしいです。まだ、見てない方は是非一度足をお運びください。
先日の記事の続報です。

今日発行の、ベラクルス大学の新聞に写真付きで載りました。
そう、先日の記事の続報という事は、僕自身に関する記事ではなくて、サイファース先生のメダル受賞記念シンポジウムの記事です。

よく僕ら日本人の名前は間違えられて掲載されるのですが、今回は正しい名前で掲載されました(良かった...)。
記事の一番最後に、僕とサイファース先生との関わりや、今回僕が発表した内容が簡単に紹介されています。
下のリンクは新聞のインターネット版をPDFファイルにしたものです。もし良かったらクリックしてやって下さい。

ダウンロード(pdf)
少し、更新が遅くなってしまいましたが、今回は2週間前、10月11日にベラクルス州の州都ハラパにある人類学博物館で行なわれた「Homenaje a la Dra. Ann Cyphers」というイベントについて。日本語では何と訳すんだろう、「○○先生退官記念シンポジウム」とか「○○先生の還暦を祝う会」とかそういうイベントに近いのかな...。


(シンポジウムのポスター)

メキシコではよく、有名な先生が亡くなった後などにその先生の業績を讃え、その人を偲ぶシンポジウムが開催されたりします。つまり、通常は先生が亡くなった後に開催される学術シンポジウムなのですが、今回はもちろん僕の指導教官でもあるサイファース先生は元気でピンピンしてます。もちろん、退職もしていません。ただ、偶然にもちょうど60歳、日本で言うところの還暦を迎えられました。


(アン・サイファース博士)

今回のシンポジウムは、サイファース先生の業績を讃えるのはもちろん、彼女が牽引してきたProyecto Arqueológico San Lorenzo Tenochtitlán - PASLT(サン・ロレンソ・テノチティトラン考古学プロジェクト)の20周年記念も兼ねたもので、これまでの調査に参加したメンバーも沢山集まりました。ただ、残念な事にこれまでプロジェクトを支えてきた多くの作業員の人たちは、洪水の影響でハラパに来る事が出来ませんでした。サイファース先生もその事を非常に残念に感じていたようです。自然の力には誰も逆らえません....。

  
(会場の様子)

午前の部に14本、昼食後に特別講演4本、午後の部10本の発表がありました。メキシコはもちろん、彼女の母国アメリカ合衆国からも有名な先生方も参加しました。僕も、午前中の部でサイファース先生に指導して頂いている博論の一部を発表しました。発表者が30人程いるので一つの発表に割り当てられた時間は10分と、非常に短い時間での発表だったので、かなり内容を凝縮して色々な部分を省略しなければならなかったのですが、発表の後、サイファース先生からはお褒めの言葉を頂く事ができたので、良かったのかなと思います。少しはこれまでの恩返しが出来たのだろうか...。

 
(発表中の僕)

  
(昼食会の様子)

その後はベラクルス大学からサイファース先生への記念メダルの贈呈式が行われました。この記念式典には博物館の館長サラ・ラドロン・デ・ゲバラ博士はもちろん、ベラクルス大学の学長まで参加するという、メキシコの大学のイベントでは最上級の待遇の記念式典でした。新聞社はもちろん、テレビ局の取材も来ていました。

  
  
  
(式典の様子)

式典の後は、博物館の主催で立食パーティが開催され、生バンドの演奏を聴きながらみんなワイングラスを傾けていました。


(博物館主催パーティでの一コマ)

博物館主催のパーティの後は場所を移動して、サイファース先生主催のプロジェクト20周年記念パーティが行なわれました。そこでは、サイファース先生が準備してきたこれまでの調査での様々な写真が披露され、みんな懐かしくそれを眺めつつタコスをつまみにビールを飲み、歓談に花を咲かせていました。

 
(パーティ会場の様子。日本から参加の伊藤伸幸博士も。)

途中、博物館の館長サラ博士からシンポジウムの発表者に「コンスタンシア」と呼ばれる、発表の証明書が手渡され、サイファース先生からはプロジェクト20周年記念Tシャツが手渡されました。

  
(証明書を受け取る僕。記念Tシャツ(もう何度か着てしまったのですが、ちゃんと洗ってあります!))

パーティの最後には、「ピニャータ」と呼ばれるくす玉割りが行なわれました。メキシコでは色々なパーティの時に、中にお菓子を詰めたピニャータを棒で割るという行事が行なわれます。今回のくす玉は、シンポジウムに参加できなかったデイビット・グロープ博士、サイファース先生のアメリカでの大学の恩師の形をしていました。さすがに、僕らはもちろん、サイファース先生も、このくす玉を棒でたたき割るというのは気が引けたのでしょうか、なかなか本気でたたけてないようでした。次は参加者の子供達がくす玉割りをする事になりました。


(グローブ博士形ピニャータ。)

  
(くす玉に向かうサイファース先生。くす玉を必死に割ろうとする子供)

子供達のおかげで、僕らもエンジンがかかってきて、次々に皆参加してグローブ博士の形をしたくす玉に向かっていきました。

  

(徐々に悲惨な形になっていくくす玉...。もちろん僕も参加!)

パーティは深夜2時半頃まで賑やかに続きました。
みんなが言っていたのですが、こんなに嬉しそうなサイファース先生を見たのは初めてだそうです。これだけ多くの人がサイファース先生を慕って集まってきたというのは、彼女の人望の厚さを表したものなのだと思います。
これからも、元気に僕らの事を引っ張っていってもらいたいと思います。
ありがとうございます。サイファース先生!!!

ベラクルス大学で授業を教えるようになって、早くも1ヶ月が経ちました。
メキシコシティと大学のあるハラパへの行き来には長距離バスを使い、往復で9時間から10時間程かかります。火曜日の夜に着いて、水曜日に朝10時から午後4時までの6時間授業をしてその日の夜にメキシコシティに戻るというのは、週1日とはいえ、さすがにちょっとしんどい。でも、学生さん達もやる気があるし、こちらも頑張らないと。


(写真:いつも使う長距離バス)

僕が受け持っている授業は、発掘の方法と技術に関する演習で、学生さん達は今学期が終わった後、全員がどこかの発掘現場に行って実習を行なう事になっています。ですので、僕の役割は、彼らが現場に出た時に仕事を進めていく上で技術的にも方法論的にも困る事のないように、発掘に関する色々な技術や方法を理解してもらうという事になります。

最初の授業は、お互いの自己紹介をして、授業の進め方や内容、そして、学生さん達にとって最も関心のある評価の方法などを説明して、早めに授業を切り上げました。学生さん達は日本で言う所の3年生以上で、初めて発掘に参加しようとする人もいれば、既に何度も発掘の経験がある人もいて様々です。各人の考古学に対する興味もバラバラで、テーマとして一番多かったのは比較的新しい時代の考古学のようでした。残念ながら、24人中1人も僕が専門としているオルメカ文化に興味を持っている人はいませんでした...。



2回目の授業から、本格的に講義を始めました。まずはじめに、考古学の発掘は方法論や技術的には世界的に共通であるという事を知ってもらうために、そして、それらは唯一無二のものではないという事を知ってもらうために、僕がこれまでに経験してきた発掘を具体例としてみんなに見てもらいました。

幸いにも、僕自身、メキシコで考古学を始める前に、東京や沖縄、そして中国で調査に参加する機会があったので、それらの写真を元にみんなに紹介しました。次に、彼らが今後働いていくメキシコでの発掘についても、様々な場所によって、色々な特徴や共通する事がある事を、これも写真を使って説明しました。

これまでに、色々な経験がある人も、まったく初めての経験になる人も、多少なりとも発掘のバラエティや共通性を理解してもらえたら良いのですが、どうだったか...?

僕は発掘で大切なのは、「直感」と「想像力」だと思っています。そして、それらを得るために必要なのは発掘で現れる様々なものや現象を事細かに「観察」し、「解釈」する力だと思っています。また、作業を進めていく上で重要になってくるのは、「協調性」と「柔軟性」だと思っています。

もちろん、これらは簡単に身に付くものでも、生まれながらにして持っているものでもありません。現場での様々な経験、そして現場以外の場所での知識の収集がこれらを培ってくれるはずです。なので、僕の講義だけでこれらが身に付くわけではなく、今後の彼らの考古学への取り組みによって培われ成長していくんだと思います。僕の授業はそのきっかけ、始まりでしかないのです。その辺の所を彼らは分かってくれただろうか...。

3回目の講義は、発掘調査に出る前にやっておくべき事について説明しました。メキシコでも、発掘調査をする前には発掘計画書を国の機関に提出して、それが審査されて許可を得る事が出来ます。もちろん、審査されるという事は、必要な事柄が幾つかあり、なおかつ学術的な意義なども評価されるわけです。ですので、考古学的研究あるいは作業の一般的に行なわれている一通りの流れを説明した後は、具体的にこれらの発掘計画書について、みんなで議論し、発掘調査実施を認めてもらうにはどういう事が必要なのかという事を理解してもらおうと思いました。

僕は、最初の授業の時に試験は行わないという事を彼らに伝えました。その代わりに、学期末にはこの発掘計画書を彼らに書いてもらい、それを元に成績をつけるという事を説明しました。というのも、ここには発掘現場で実際に行なう事が記述されなければならず、その方法の正当性と学術的意義も明確にする必要があります。つまり、この「架空の発掘計画書」を書くには、発掘における様々な方法論や技術を理解している必要があるわけです。そして、メキシコで発掘を行なうにはメキシコの法律も理解する必要があり、それらを遵守しなければなりません。

たぶん、こういった内容の講義を6時間も聞くのはとても退屈でしんどいことだと思ったのですが、どうしても必要な事なので避けては通れません。考古学は学問で、宝探しではないという事を理解してもらう必要があるのです。

先週行なった4回目の授業では、実際に現場に出てから行なう作業の技術的な講義に入りました。発掘を始めるにあたって、まず最初に行なう発掘区の設定と言う作業です。慣れてしまえば、何という事のない作業なのですが、慣れるまではちょっと時間がかかる場合が多々あり、実際に現場に出た時に、この最初の段階でつまずく事の無いように、初めに教室内で一通りの作業の流れと、気をつける事などを説明し、その後は実際に屋外に出て発掘区の設定作業をやってもらうことにしました。

  

場所は大学内にある中庭のような場所で、比較的広いスペースが確保できる場所です。そこで4人一組のグループで作業してもらう事にしました。手始めに、1x1mの大きさの試掘坑を設定してもらいました。予想通り、初めはどのグループも手こずっていてなかなか設定する事が出来ませんでした。慣れてしまえば10分もかからないはずなのですが、30分以上、悪戦苦闘するグループもありました。それが終わると次は、2x2m。そして最後は1x3mの大きさの試掘坑を設定する作業をしてもらいました。基本的には三角比を使って設定すれば良いので、最初の1x1mが出来れば、あとはその応用なのですが慣れるまでは時間がかかるようです。

一通り、3パターンの大きさの設定が終わった後は、もう一度同じものを設定するという作業を繰り返してもらいました。結局、頭では分かっていても実際に体を動かして体で覚えるのが一番早く身に付くからです。実際に、一つ終わるたびに彼らのスピードも正確さもアップしているのを彼ら自身も気がついたようです。

  

実際に現場に出ると発掘区の設定を何の意味もなく適当にする事はありません。ですので、彼らにもそれぞれの場所でどうしてそこに発掘区を設定するのか、何のためにそこを発掘しようとしているのかということを答えてもらいました。色々と面白い考えも出てきて僕自身もとても楽しめました。

今週は、現場写真の撮り方を同じように、講義の後に外に出て行なう予定です。はたして、どうなるか。また、色々と面白い事を考えてくれると良いのですが...。
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